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Intermission -what is the top idol-


アイドルランク。

それはアイドルの人気と実力を表すための指標。

その制度がいつ生まれたのか、俺は知らない。

ただ、アイドルランクが生まれてからのアイドル界は大きく変化したらしい。

何をもってトップアイドルと呼べるのか明確になったからだ。

全てのアイドルはFランクとしてデビューし、トップアイドル(Aランク)を目指して長い道のりを歩いて行く。

悪い言い方をすれば、大きな1本のレールが出来たのだ。

アイドル達はこのレールの上を歩いて行くだけで、自ずとトップアイドルになれる。

もちろん、それは選ばれたごく一部だけの話で、多くのアイドルはAランクになる事なく、志半ばで引退していくのだが。

ともかく、このレールはトップアイドルという終着駅につながっている。

いや、この時の俺には、それが終着駅なのかどうかすらわかっていなかったのだ。

だから闇雲に目指し、闇雲に走った。

そこに彼女を送り届ける事こそが、自分の使命だと信じて。

トップアイドル。

その意味を、俺も春香も今はまだ知らない。
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ある日の風景40.845


夢を見た。

小さい頃の夢。懐かしい夢。

私は公園にいる。
公園には沢山の子供達が居て、私もその子供達に混じって遊んでいる。

ブランコ、すべり台、鬼ごっこ。
みんな、とても楽しそうに走り回っている。

子供達の笑い声の中に混じって、ふいに歌が聞こえた。
とても優しい音。
わたしの大好きな歌だ。

「うたのおねぇさん!」

誰かがそう叫ぶと、彼女が腰掛けているベンチへと一目散に走っていった。
他の子達も同じように続く。
たちまちベンチの周りは子供達で一杯になっていた。

「みんなは今日も元気一杯ね」

そう言って、彼女は優しく微笑んだ。
みんな彼女が大好きだった。
彼女の歌が大好きだった。
「それじゃあ、今日は何を歌おうか」
そうして、彼女は立ち上がった。

それはとてもとても穏やかな時間。

近くて遠い私の始まり。


そこで、目が覚めた。

「ごめん、起こしちゃったか」

運転席に座っているプロデューサーさんがバックミラー越しにそう声をかける。
私はふるふると首を振ってそれに応える。まだ頭がぼぅっとしている。
どうやら仕事帰りの車の中で寝てしまったらしい。

プロデューサーさんに寝顔を見られていたかと思うと少し恥ずかしい。
いや、寝顔を見られた事なんて数え切れないほどあるんだけど。
こういうのは回数の問題ではないのだ。

「私……、どのくらい寝てました?……」

「30分くらいかな。事務所まではまだ時間がかかるから、寝てても大丈夫だぞ。
最近、ろくに休みを取れてないからな。疲れてるだろうし、休める時に休んでおいた方がいい」

「でも……」

-----------------------------------------------------------------------------
A→P

「でも……」

春香は、何かを言い淀んでいるのか、少し俯いているようだった。
暗い車内の、しかもバッグミラー越しでは、その表情まではうかがい知れない。

「そういえば、最近、春香のお菓子食べてないなぁ」

何となく、俺は話の方向を変える事にした。

「あ、そうですね。昔は、よく事務所に持ってきてたんですけど」
「持ってきただけで、食べられずに終わった事も多いけどな」
「むぅ、それどういう意味ですか」

春香はむくれている。

「はは、冗談だよ」
「わたし、最近は全然こけないんですよ。これでも成長してるんですから」
「知ってる」
「じゃ、じゃあ何がいいですか?特別にプロデューサーさんのリクエストに応えちゃいますよ」
「そうだなぁ。冬だし、温かいお菓子、とかどうかな?」
「温かい、温かい……。それじゃあ、フォンダンショコラなんてどうですか?
出来たては、中のチョコがとろとろですっごく美味しいんですよ!
って、事務所に持ってくる前に冷めちゃいますよ」

お、いつの間にノリつっこみなんて高度な技を。

「まあ、温かいお菓子はまたの機会にするか」
「作りに行きます」
「はい???」
「作りに行きます」

2回言われた。
あまりに思いがけないセリフに、疑問符が3つくらい浮かんでしまった。

「前にプロデューサーさんが私の家に来た時、約束しましたよね。
今度、プロデューサーさんのお家に招待してくれる、って」

う……。まさかその約束を覚えていたとは……。
あの時は、上手いこと誤魔化したと思ったんだけどなぁ。

「し、した、かなぁ……。そんな約束?……」

苦笑いの俺。今に限っては、夜の車内である事に感謝したい。

「しました」

すっぱりと断定されてしまった……。
いやぁ、今日の春香は強いなぁ。ひょっとしたら、まだ寝ぼけていて自分が何を言ってるのか、よくわかってないのかもしれない。

「した、した!そういえばしたなぁ。今思い出したよ」

まずい、よなぁ。いくらなんでも、プロデューサーが担当アイドルを家にあげるのは。
担当アイドルの家に家庭訪問するのとはわけが違う(あの時、家には誰もいなかったような気がするけど)
もしばれたりしたら、スキャンダル所の騒ぎじゃない。
というか、その前に俺が社長に殺される!!

「でも、ほら、うちって、男の一人暮らしだからさ。結構ちらかってるし……」
「だったら、いっしょに、掃除もしないと、いけないです、ね……」

いいながらこっくりこっくりしている春香。

こっくり?

「春香、大丈夫か?」
「大丈夫です……。こうみえて、私お掃除にも自信あるんですよ。
お洗濯だって、お料理だって……、ちゃんとやって……」
「いや、そういう大丈夫じゃなくて」
「…………」
「…………」
「おーい、春香さーん」
「むにゃ……」
「……」

スースーと寝息が聞こえる。

どうやら、また、眠ってしまったらしい。
ほんと冷や冷やさせてくれるよ。

でも。

そういう生活も、春香と一緒ならきっと楽しいんだろうな。
そんな事をふと思った。

「って何考えてるんだか」

俺も少し寝ぼけているのかもしれない。いけない、いけない。
パチン、と頬に気合を入れる。

「うし」

さあ、帰ろう。

いつもより少しだけゆっくりと。

春香を起こさないように。

train -inbound-


ー私の想いを乗せて

2時間の通勤時間は、私にとって貴重な自由時間だ。
友達とメールしたり、本を読んだり、時には勉強したり。
初めは大変だと思っていたけど、今ではすっかり慣れてしまった。
もちろん、慣れてしまったというだけで、大変な事に変わりはないんだけど。
それでも、辛いと思ったことは一度もない。
それは、嘘偽りない本心だ。

「私も、少しは成長できてるって事なのかな?」

あまり実感はないけれど。
それでも、ここまで来れたのだから、私も少しは自信を持ってもいいのかもしれない。

活動をはじめてから、もうすぐ1年がたとうとしていた。

あっという間だった、と思う。

右も左もわからない状態からスタートして、ひとつひとつ仕事を覚えて
レッスンして、オーディションを受けて。
はじめて合格した時の嬉しさとか、不合格になった時のくやしさとか
ライブでの熱気、みんなの声援、煌めくステージ
そのひとつひとつを今でも、はっきりと思い出せる。

決して楽な道ではなかった。

何度も転んで、何度も立ち止まりそうになった。

それでも、こうしてここまで歩いて来られたのは、いつも側にプロデューサーさんがいてくれて
私を励まして、手を引っ張ってくれたからだ。

ー時々、本当は全部夢なんじゃないかって思う事もあるけど

その時、感じた想いは絶対に夢なんかじゃない。

だから、だからこそ、私は……。



携帯が震えた。

どうやらメールが届いたらしい。
送信者は

「プロデューサーさんっ!」

プロデューサーさんとは、よくメールのやりとりをしている。
で、でもそれは個人的なお付き合いがあるとかそういうわけではなくて、
社長曰く
『アイドルとプロデューサーの信頼関係を構築して円滑なコミュニケーションを進めるため』
とかなんとか。

だから、仕事以外でも日々の生活の中で起こった事についてメールしたりしている。
もっとも、ほとんど私が一方的に喋ってるだけなんだけど。

プロデューサーさんのメールは、いかにも男の人が書いたって感じの絵文字も何も入ってないシンプルなメールで、
文章も素っ気ない。
でも、これは私の事なんてどうでもいいと思われてるとかでは決してなくて(たぶん)、プロデューサーさんは不器用な人なのだ。
これは、この1年で学んだ事のうちのひとつ。

メールの内容は、次のオーディションについてだった。

”SUPER IDOL”

アイドルを目指すものなら、誰もが夢見る真のトップアイドルだけが立てる場所。

そのオーディションを受ける。
もし合格すれば、私はAランクになる。
そのために、これからしばらく特別スケジュールになる、という事らしい。

「よしっ!」

私はちいさく気合いを入れる。
まずは、目の前のオーディションだ。

一歩一歩あせらずマイペースで。

それが、今までの私たちの歩き方だったのだから。
それは、これからもきっと変わらない。

アナウンスが駅へと着く事を知らせる。
今日もまた1日が始まる。

「行ってきます」

自分自身にそう告げて、私は一歩を踏み出した。

俺と春香とプロデューサー 1


―変わらないものなど何もない

―例え、彼女自身が変わらなくても、彼女を取り巻く環境は目まぐるしく変わっていく

Bランクになってから、しばらくが経った。春香は名実共にトップアイドルとなり、彼女の元には多くの仕事が舞い込んでいた。
俺も春香も、忙しいながら充実した毎日を送っていた。

そんなある日のこと



それは、トップアイドルにとって宿命なのかもしれない。夢を叶えるためには、代わりに何かを犠牲にしなければならない。
春香だけに限った事ではない。トップアイドルを目指すなら、きっと誰もがいつかはぶつかる壁なのだ。
だからこそ、春香には乗り越えて欲しかった。春香なら乗り越えられると思った。
彼女の強さは、ずっと側で見てきた俺が誰よりも知っている。

―でも、一体どれだけの事を知っていたと言うのだろう

―彼と彼女は、プロデューサーとアイドルという関係でしかないというのに

それからも、仕事量は増加の一途だった。
スケジュールは分刻みになり、仕事が夜遅くにまで及ぶ事も多くなった。
家に帰る事が出来ずに、ホテルに泊まる事もしばしばだった。

はじめは、仕事を制限する事も考えた。
しかし、今はトップアイドルとしての足場を固めるための大切な時期だ。
おいそれと仕事を減らすわけにはいかない。
それは彼女もわかっているはずだ。わかってくれているはずだ。
だって、俺も春香もトップアイドルを目指して、今まで頑張ってきたのだから。

―それでも、春香への負担が大きくなっている事は目に見えて明らかだった

ある日、俺は彼女にこんな提案をした。

「こっちで、一人暮らししてみる気はないか?」

2時間という通勤時間、それは彼女にとって負担以外の何物でもない。
それに、以前のように電車通勤というわけにもいかない。
そんな事をすれば、たちまちパニックになってしまう。
それほどの人気を、今の彼女は持っている。
現実的に考えて、仕事と学業の両立を目指すなら、上京して一人暮らしする事が最善の方法だと思った。

しかし、決して彼女は首を縦に振らなかった。

―答えなんて、最初からわかりきっていたのかもしれない

もし、一人暮らしをするとなれば、学校を変わらざるを得ない。今の友達とは離ればなれになってしまうし、家族とも頻繁には会えなくなる。
それは彼女にとって、とても耐え難い事なのかもしれない。

彼女は沢山の人に支えられている。家族、友達、そして数多くのファン。
そうした支えの上に、今の彼女がいる。

―それこそが彼女の強さなのだ

もし、その支えがなくなってしまった時、彼女は今までのように歩く事が出来るだろうか……?

「プロデューサーさん、どうしたんですか?ボーッとして。最近、仕事が忙しいし、疲れが溜まってるんじゃないですか?」
「ん?いや、心配ないよ。それに、疲れが溜まってるのは春香も同じだろ?」
「私は大丈夫です!若いですからっ」
「それは、遠回しに俺が若くないって言ってるのか!?」
「えへへ、冗談ですよっ。確かに疲れてないって言ったら嘘になるけど、私はみんなから沢山元気を貰ってますから。だから、大丈夫ですっ」
「そっか……、そうだな」
「それじゃあ、プロデューサーさん。今日はお疲れまでした」
「あぁ、お疲れ様。気をつけて帰れよ」

そうして、いつもと変わらぬ笑顔で彼女は去っていった。

俺は、春香のために何が出来るのだろうか?
プロデューサーとして、彼女の側にいる事が出来る時間はもうほとんど残されていない。
それまでに、俺は何を残せるだろうか?

― 結局、俺一人で彼女を支える事が出来たらなんて、そんなのただの傲慢でしかないのだから

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